異常存在特別収容施設魔白の箱
この収容データは役員クラスA以上の職員か
「君はイマーシブシアター」の被験者となり
チケットを手に入れた者のみが
閲覧可能なデータである。
ミーム汚染/精神汚染防止のため
第三者とのデータベースサーバーの共有は厳禁とする。
職員同士、あるいは被験者同士で
このデータについて論じる場合は、
第三者の目に触れぬよう
対策をしたのち、行うものとすること。
アイテム番号: 1992-TK君はイマーシブシアター
1992-TKは、███ ██区に存在する、廃屋となった映画館である。1992-TKの住所は███ ██区 ██町 ███- ██とされているが地図アプリなどを使用しても、建物の無い更地に案内されることから一般人や、情報を得ていない財団の人間の侵入は不可能とされている。
1992-TKは、半年に一度「君はイマーシブシアター」と記述された映画のチケットを流布する。これは、日本で行われる同人即売会にサークル運営者を装い行われている。
チケットを管理している人間は、健康な成人女性のように見える。同人即売会以外では存在を確認されておらず、友人と思しき人間もその周りに数人見受けられるが、彼女の詳細を問うても回答が無い。以降この女性を人型実体とし、1992-TK-Aと呼称する。
チケットには███ ██区 ██町 ███- ██と映画館の住所が記載されておりチケットを手にした状態でのみ、地図アプリ、あるいは紙面での情報をもとに1992-TKの存在を認知、干渉が可能となる。
映画館には「昴グランドシネマ」と看板が立っている。スタッフのような人間は見当たらず、建設から数十年経っているように見える。経年劣化が激しく、補修工事等が行われているようには見えない。
上映チケットの販売窓口には誰も立っておらず、傍目に見ても営業しているようには見えない。建物は2階建て構造になっており、1階は軽食販売スペース。土産物コーナー、シアタールームが1つ。2階は小規模なシアタールームが2つで構成されている。内部はところどころ埃が積もっており、照明は機能していない。2階の「シアタールーム③」のみ、映写機が機能しているのか、スクリーンに映像が映し出されている。そして、この「シアタールーム③」に侵入した人間はその後の消息を完全に絶ってしまう。
博士 音井博士 担当 D-9016探査ログ 【同人即売会】1992-TK-1
- D-9016
- なあ、本当に今回の探査が終わったら解放されるのか
- 音井博士
- 黙れ。許可のない発言は慎んでもらおう。
- D-9016
- はあ…気の強い姉ちゃんだ…。
- 音井博士
- 周りの様子はどうだ。
- D-9016
- どうもこうもねえよ。周りはオタクみたいなやつらでいっぱいだ。小さい島がいくつかあって…
- D-9016
- CDとかを売ってる。俺はけっこう音楽は聴く方だったけど、こういうニッチなのははじめてだな。
- 音井博士
- ███に迎え。そこで頒布しているものを購入してほしい。
- D-9016
- あいよ…
(同人即売会会場███スペースに待機している女性1992-TK-Aに接触)
- 1992-TK-A
- こんにちは!新譜はこちらです!
- D-9016
- あ、ああ。…こいつは1人1枚か?
- 1992-TK-A
- 申し訳ないです…今回在庫に限りがあるので、おひとり様1枚でお願いしています。
- D-9016
- そうか…じゃあ、一枚くれ。
- 1992-TK-A
- ありがとうございます!2500円です。
(D-9016はチケット購入後、同人即売会会場から離脱。)
- 音井博士
- 購入したようだな。頒布物の中身を改めてくれ
- D-9016
- …随分厳重に封してあるな…チケットだ。「イマ―シブ」…映画のタイトルみたいだ。
- 音井博士
- 他に情報は?
- D-9016
- 住所が書いてある。「昴グランドシネマ」だとよ。こっからはちと遠いな。
- 音井博士
- 事前に渡してある端末を使用して、住所を入力し向かってくれ。到着したら現地の動画を送るように。
博士 音井博士 担当 D-9016探査ログ 【昴グランドシネマ】1992-TK-2
- D-9016
- ついたぜ。しっかしこんなところに突然映画館があるなんて驚いたな
- 音井博士
- 周りの様子はどうだ?地図によれば、商店街のようだが
- D-9016
- ああ。サビれたションベン臭い…死にかけの商店街だよ。ジジイババアしか歩いてねえ。
- 音井博士
- 一般人が歩いているのか?
- D-9016
- 歩いてるよ。声をかけてみるか?
- 音井博士
- いや、不用意に一般人に接触するべきではない。周囲の写真を数枚送ってくれ。
(携帯端末のシャッター音が数回響く。)
- D-9016
- ほらよ。くたびれた所だろ?
- 音井博士
- ……本当に映画館を撮影したのか?
- D-9016
- あ?写ってるだろ。真ん中に『グランドシネマ』って、青色の…あいや、錆びて…こいつはほとんど緑だな。
- 音井博士
- ……了解した。映画館の中に入ってもらえるか?
- D-9016
- あいよ
(突如、かすかに聞こえていた環境音が途絶え、D-9016の足音が目立つようになる。声が反響していることを考えると、建物の中に入ったようだ。)
- D-9016
- おいおい…こいつは営業してる様子はないぞ。あちこちボロボロだ。
- 音井博士
- 他に人の気配はないか?周囲の様子を報告してくれ。
- D-9016
- 誰もいないよ。もぎりも、窓口もからっぽだ。ジュースを売ってるところがあって…そこにも誰もいない。
- D-9016
- 2階建みたいだ。ごみごみしててカビ臭いのに…ほんのり、ポップコーンの匂いがする。
- 音井博士
- ポップコーン?販売しているのか?
- D-9016
- まさか。機械の中には埃しか入ってねえよ。
- 音井博士
- 探索を続けてくれ。
(探索途中、撮影した写真は全て更地であった。)
- D-9016
- まってくれ。音がする…シアタールーム③だ。誰かいるのか!
- 音井博士
- 干渉は慎重に!大きな声を出すな!
- D-9016
- …誰も、誰もいない。だけど、映画だ。映画が上映されてる。
- 音井博士
- 映画?何が映っている
- D-9016
- …ここみたいな場所…いや、もう少し広い…だけど何もない…冷たい…冬か…?
- 音井博士
- 映像に残せそうか?
- D-9016
- うわっ…!
(突如、D-9016の短い悲鳴と、鈍い物音がする。手に持っていた端末を落とす音)
- 音井博士
- どうした!何が起こった!
- D-9016
- ああ…そうか…そうだな。それは、あるいはジャズで、あるいはロックだ。奔走する音は…エレクトロニクスの要素も併せ持つし、まるで交通事故みたいな…いや、事故だったんだ。あれは…そんな衝撃が…本当に痛かった…。
- 音井博士
- 何を言っている?
- D-9016
- 痛い、痛い、痛い、最初からこんなところにいちゃいけなかった。ずっと待たせて済まない。続ける?べきじゃない…もう一度聞かせてくれないか?その………体験を、もう一度。
- 音井博士
- D-9016!探索を終了し、直ちに建物から撤退しろ!
- D-9016
- よいこ…ごめんな。
(通信が途絶え、環境音も聴こえない。数時間の後バッテリー切れになった通信機はGPSにも反応せず回収不可能となった)
補遺①昴グランドシネマについて
███ ██区に以前【昴グランドシネマ】という建物は存在していないようだ。だが、長野県██市には同名の映画館が存在していた形跡があり、今では取り壊されている。
チケットを手にしない状態で該当住所に向かった場合の更地の所有者は【原田(はらだ) 月世】氏であることが判明氏は2011年10月4日に勤め先である製薬会社の事故により死去しており、同年7月にも娘を交通事故で亡くしている。夫も後を追うように家を出てしまい消息が掴めていない。親戚との関りも希薄で関係は良好とは言い難く、この土地を相続するものはいなかったようだ。
長野県██市に存在する同名の映画館は、原田氏の夫である【角村 雄大】氏の実家が所有していたもので、営業は2005年に終了している。角村氏自身も映画館含む土地の権利を市に引き渡し、地域開発の影響もあり取り壊されている模様。
角村氏、原田氏に1992-TKに関連する事例が無いかを調べるため、角村氏の妹である【角村優里】氏にインタビューを試みた。
博士 音井博士 対象 角村優里インタビューログ
- 音井博士
- それでは、角村雄大さん家族について、詳しくお伺いできますか?
- 角村優里
- はあ…詳しくって言われても…兄とは…あんなことになる数年前からもうずっと会っていませんでした。
- 音井博士
- あんなこと?
- 角村優里
- えっと…お義姉さんが亡くなった…事故から…。
- 音井博士
- 原田月世さんが勤めていた製薬会社の件ですか?
- 角村優里
- はい…。
- 音井博士
- 事故について、詳しくお伺いできますか?
- 角村優里
- わたしが知ってることは、ほとんど報道されてた内容と変わらないんですけど…。
- 音井博士
- かまいませんよ。聞かせてください。
(考え込むようにしばらく沈黙したのち、角村氏が口を開く。)
- 角村優里
- 治験の被験体に…お義姉さんがなったって…それで…試薬段階の薬を飲んで……。
- 音井博士
- 向精神薬の治験だったそうですね。原田月世さんはなにか精神疾患を抱えていたのですか?
- 角村優里
- そんな話は…聞いたことありませんでした。それに、お義姉さんはけっこう会社の中でも偉い人だったし…
- 音井博士
- 会社の中で役職のある人間がわざわざ治験を?
- 角村優里
- 変だなって思いましたよ。でも責任感も強い人だったし…よく、言ってました。「自分の目で見たもの、体験したことしか信用しない」って…ちょっとプライドも高くて、いつも偉そうで…わたしは得意じゃなかったです。
- 音井博士
- 治験に参加した数名の職員と治験患者はその試薬を服薬後亡くなっています。
- 角村優里
- ショッキングな事故でしたから、うちにも何人かマスコミが来ました。でも、詳しいことは…わたしたちには何も…わからなかったので…。
- 音井博士
- そうですか。
- 角村優里
- あ…でも。
- 角村優里
- お義姉さんが、仕事に打ち込むようになったのは宵子ちゃんが交通事故にあってからかも
- 音井博士
- 原田月世さんと角村雄大さんの娘さんの?
- 角村優里
- はい。たしか…ひき逃げだったんですよね。商店街の…コインパーキングの近くで轢かれたって。宵子ちゃん、跳ね飛ばされて、近くの空き地に…誰も管理してない土地だったからけっこう雑草が生い茂ってて、深夜だったのもあって発見が遅れたって…。
- 音井博士
- もしかして、その土地というのは███ ██区 ██町 ███- ██あたりの?
- 角村優里
- いや…住所を言われてもよくわからないですけど…でもたしか、宵子ちゃんを轢いた犯人を見つけるまでは、少しの手がかりも逃したくないって、お義姉さんが土地の権利を買ったって聞きました。
- 音井博士
- なるほど…そうなんですか。
- 角村優里
- 宵子ちゃん、塾の帰りだったって…お義姉さんも兄さんもあんまり得意じゃなかったけど、あの子とは仲良くしてました…。
- 音井博士
- 娘さんとは交流が?
- 角村優里
- はい。あの子が小さいころ…一緒に祖父が経営してた映画館で一緒に映画を観たりしました。
- 音井博士
- その時のタイトルは?
- 角村優里
- え?…なんだったかな。子供向けの映画だったと思います。
- 角村優里
- 祖父は変わり者で、大きな映画館で上映するタイトルは絶対流さないというこだわりがありました。どこの配給会社だったかも…でも、要所要所の描写がリアルって言うか…やけに自分との距離が近い様な…ちょっと怖いなって…。まあ、あのボロボロの映画館で見た作品だったので、雰囲気に飲まれちゃったのかもしれないですね。
- 音井博士
- 角村雄大さんとは、一度も連絡は?
- 角村優里
- お義姉さんが死んでから、実家にも連絡はなかったです。うちにも全然。
- 音井博士
- お父上は、映画の経営は引き継がなかったのですね。
- 角村優里
- ……限界集落ってほどじゃないけど、田舎だったし、映画の常連さんだった何人かが…痴ほうだったのもあったと思うけど行方不明になっちゃったりして…その中には祖父の友人もいたりして、はやいうちに祖父が落ち込んじゃって…そんな姿を見てたからかな。兄も私もなんとなく、映画館は寂しい場所って思っちゃって。
- 角村優里
- …それにあの頃から娯楽は、外から内へと変わっていったと思います。ましていまや、アニメも映画も音楽も、スマートフォン一つあれば家の中で楽しめますからね。…継がなくてよかったと思いますよ。
- 音井博士
- またなにか、思い出したことがあればご連絡ください。
- 角村優里
- …はい。少しだけ、話せてすっきりしました。ありがとうございます。こちらこそ。
(今回のインタビューをきっかけに何か新たな情報を引き出せる可能性があるとして、音井博士の判断で記憶処理は行わず角村優里氏を帰宅させた。)
補遺②角村宵子 ひき逃げ事故について
2011年7月25日 深夜23:46
███ ██区 ██町 ███- ██にて角村宵子(17)が交通事故により死亡角村宵子は塾から自宅への帰宅途中、細い路地を走る車にひき逃げに合い、車体と衝突した衝撃で管理者のいない土地まで跳ね飛ばされ、死亡。商店街に設置してある監視カメラから事故の状況が認められたものの、車からナンバーを意図的に外されていたようで所有者を特定するのに難航し、警察は捜査を打ち切った。角村宵子の四肢は卍型に折れ曲がり、死亡推定時刻は深夜1:00頃と推察されており少なくとも1時間程度は苦しみながら生存していたと思われる。直接の死因は大量出血によるショック死とされている。
補遺③福禄製薬会社の新薬治験事故について
2011年11月25日
福禄製薬会社で起きた新薬治験事件は、死者を6名も出した事故として当時マスコミにも大々的に報道された。新薬は一般販売される予定の睡眠導入剤の性質を合わせ持つ向精神薬で、現代人の不安に寄り添う新しい試みだった。重要ポストについている役職者1名、治験アルバイト5名がこの薬を服薬したところ統合失調症に似た症状を発症し、支離滅裂な言葉を数度発した後、突然全員が自ら命を絶ってしまった。
この時、薬を服薬した上で、症状こそ発症したものの最新医療を受け生還した治験アルバイトが1名存在しており、インタビューを試みたが、本人の精神状態は極めて不安定であり、記憶処理による薬物投与がどのような相互作用を起こすかが未知数だったためこれを断念。
追記
福禄製薬会社について調べる中で、スポンサーに要注意団体とされている「キネマ灯篭倶楽部」が関係していることが判明した。
創始者らしき人物と会話している録音データを原田氏が残しており、ボイスレコーダーは福禄製薬会社の跡地ビルにて発見された。
記録者 原田月世会話ログ 【福禄製薬会社】1992-TK-3
- 原田月世
- …記録を、記録を取っています。…ああ、私はとんでもないものを…作ってしまった…。
- 原田月世
- だれも、この薬を飲まないで…これは…人の精神に重大な疾患を…。
- 女性の声
- それは疾患では無いよ。原田さん。
(原田氏とは別の女性の声がする。1992-TK-Aの声に酷似)
- 原田月世
- …倶楽部長…どうして…あなたが仕組んだことなのですか?
- 女性の声
- 仕組んだなんて…ぼくは少し、お手伝いしただけです。原田さんもそれを望んでいたでしょ?
- 原田月世
- 私がこの状況を?望んでなどいません!
- 女性の声
- いいや、ぼくは確かに聞きました。あなたは…娘さんの事故の真相を知りたいと。
- 原田月世
- ……宵子の事件と、今回の事に何の関係が?
- 女性の声
- まったく。もうわかりきったことを態々聞くなんて。そんなに信じたくないの?
- 原田月世
- この薬は一体何なのですか!最初に話していたことと違う症状が現れています!
(女性のため息)
- 女性の声
- きみ、音楽は好きかい?ああ、あるいは映画…アニメ…娯楽なら何でもいいよ。
- 原田月世
- なんの話?
- 女性の声
- 現代の娯楽はファーストフードと化してしまった。レコードはwavに、映画フィルムはmp4になった。本来の形で楽しむことを惜しみ、倍速で物語を…分かった気になってる。
- 女性の声
- ん、きみにとっては少し先の話になるんだけどね、まあ聞いてよ。
- 女性の声
- しかし同時に、人は「深い没入」を求めるようになった。音楽に、映画に、物語にね。娯楽を食いさしながら、それでも本質的には「体験」を求めているのさ。ホント、傲慢な話だよ。
- 原田月世
- 体験…
- 女性の声
- そう。自分が物語の一部になることを…望んでいる。
- 原田月世
- ………
- 女性の声
- どう?自分が物語の舞台装置だったと知った気分は。
(原田月世氏の荒い息遣いが響く。女性の声は淡々と話を続ける。)
- 女性の声
- ぼくはそういうひとのために物語を描いてきた。ずっとね。名前を使い分けながら、あらゆる時代に寄り添った物語を、考え続けてきた。このジャンルはちょっと不評もあるんだけど、「体験を」求めるのなら、向き合うべき事柄だろ?自分が……だれかの体験のための駒かもしれないと、そう認識し考えることは避けては通れない。
- 原田月世
- 私は……「きみはイマーシブシアター」のための、駒?
- 女性の声
- 実際、もう君は同僚の名前も、友人の名前も、幼少期の思い出も、朧気なはずだよ?物語の根幹には必要のないことだからね。
- 原田月世
- ………
- 女性の声
- 人々は、つまらない日々を生きている。いつも、自分ではない誰かになりたいと思っている。
- 女性の声
- それをかなえるのが「体験」だ。いまはその「体験」も手軽に遊べる娯楽になったがね。
- 原田月世
- 手軽ですって…?
- 女性の声
- 君は多くの人にとっては文字で、あるいは今後はpngで、もっと深い没入を求める誰かによって肉声を与えられる「情報で装置」だよ。本来ならそれを知ることはなかった。でも、今回の作品を作るためにはどうしても必要なことでね。
- 原田月世
- 私は…私はここにいる!!!生きてる!!!
- 女性の声
- そうだね。そうさ。ぼくが産んだんだ。今は生きていてもらわなくちゃ困る。
- 女性の声
- …しかし同時に、きみがこの後どうなるかも、きみには分かってるはずだ。
- 原田月世
- …………宵子が死んだのも、あなたの………。
- 女性の声
- ぼくはとりわけ、若くかわいい女の子が可哀想なのが好きでね。
(原田氏の絶叫が数秒響き渡る。そのすぐあと、嗚咽のような涙声がする)
- 女性の声
- 物語には、ヒロインが必要だろ。
- 原田月世
- だとしても!あんなにひどい事件に!あの子!きっと痛かった!
- 女性の声
- 人々は、より鮮烈で苛烈で、衝撃的な展開を「体験」したいんだ。
(女性の声がより近くに響く)
- 女性の声
- 君たちだってそうだろ?
(ボイスレコーダーの電源が落とされる。)
補遺④要注意団体 キネマ灯篭倶楽部
「キネマ灯篭倶楽部」は、物語論(ものがたりろん、ナラトロジー narratology)を研究している秘密結社である。
複数のオブジェクト、事件に関わっているとみて、要注意団体に設定している。1992-TK-3のログと、同人即売会で頒布したチケットの名前が「きみはイマーシブシアター」と合致していることから、今回の1992-TKの制作、頒布元には「キネマ灯篭倶楽部」の代表が深く関わっている可能性が高い。
実験記録 【新薬】1992-TK-4
同人即売会で購入したチケットからは、福録製薬会社が作っていた新薬と同じ成分が認められる。福録製薬会社跡地から押収した新薬を複数のDクラス職員に投与したところ統合失調症のような症状を引き起こし、何者かからの監視を訴え自死を試みたため、すぐさま全身を拘束、治療を重ねながら情報を聞き出そうとしたところ、断片的に「自分はキャラクターだ」「上位の誰かの暇つぶし」「体験の一部」という単語が認められた。
記述者 音井博士後記
2023/11/1
過去のログや記録を改めて見ると、「キネマ灯篭倶楽部」の関係者が口にしている内容は、2011年時点よりも、2023年現在の現状に近いことを鑑みるに、この要注意団体は過去未来現在に干渉することが可能なようだ。とすると、角村氏の映画館で起きた行方不明事件にも関連がある可能性がある。実験を行ったDクラス職員、ログに残った原田氏の言葉を汲むのであれば、こうして私が記述している内容も、誰か上位の存在の意思によるものなのかもしれないと思うと、少し背筋に嫌な汗を感じる。観測されないからこそ空たり得る、海たり得る場所が、何者かによる見えない壁だとするのなら。その第4の障壁が壊されないことを祈るばかりだ。